◎青森の特別支援学校で簿記取得。一生働くのが普通だと思うのに相手にされない
骨形成不全で小柄な彼女。出会った時は電動車いすだった。
小学生の頃から、病院併設の特別支援学校で過ごしていた。
週末だけ家族に会える。家族と離れる週末はよく泣いたそうだ。
そんな彼女の持ち味は負けん気。自立して一生働こう、と簿記の資格をとった。
しかし青森の企業は「無理しないで」「在宅か嘱託で」という回答。
普通に働くために東京の訓練校へあらためて入学した。
金融系を志望していたが、今の会社にスカウトされた。
電動車いすなので徒歩通勤を希望し、会社も社宅を準備してくれた。
通勤できるよう運転免許を取りに行った。握力不足で教習所から断られた。
電動車いすで伝票に埋もれながら働いた1年後。
握力がついてきたなあと感じ再び教習所へ。握力が条件をクリアした。
今では私有車通勤。自分の体に合うマンションを購入し、経理のレジェンドと呼ばれるボスだ。
お互いを認め合えるチーム。個々の色を活かしあうチーム。
そんな組織は人が長く定着し、新たな仲間も呼び寄せる魅力あるチームになる。
◎とび職から車いすのビジネスマンに⁉
私が出会った車いすの彼。前職はとび職。事故で車いすとなり、
職業リハビリテーションセンターで革細工職人を目指していた。
合同説明会で口説かれて未経験の事務職へ就職した。そんな頃に出会った。
きらきらした目で、愛嬌たっぷりの笑顔。「俺は野人」と言い放つ。
そんな彼は、ビジネス用語が使えない。課長って棟梁より偉いか?と質問してくる。
苦笑しながら、私は仕事の進め方を野人くんに教えるつもりで、一緒にチームになった。
しかし、私が彼に教えられることがどれだけ多かったか・・・・・。
とあるメンバー(じゃがいもに似ているので「じゃが」と呼ばれていた)から口をきいてもらえなくなった。資料の間違いを戻しても、頑として直さない。声をかけても返事がない。
その時だった。野人が私を呼び出す。
「あいつは、由紀代さんの指摘が正しいとちゃんとわかってる。ただ経緯を説明した時に最後まで聞いてくれなかったことが納得できない。俺もちゃんと言ってきかします。あいつはしゃべりが苦手だから最後まで聞いてやってください」
頭を殴られた気分だった。相手の気持に気づけなかった。
ある日、そのじゃがくんが大きなミスを起こした。携帯利用者データを消去してしまった。私と野人で復旧とお詫びに駆け回った。 対応が終わり、「人間がやる限り、ミスは起きる。落ち込まなくていいよ」と声をかけて、私は先に帰宅した。
話はこれで終わりではなかった。翌日明るい顔できたじゃがくんからこんな報告があった。仕事を終えてビルを出たら、路上に野人さんの車が停まっていた。1時間前に帰ったはずの野人さんは僕を待ってくれていた。
「お前は一人暮らしで気分転換ができないだろう。いつもどうやって気分転換するんだ?」
「カラオケです」
「わかった。今度行こうだと実現しないから今から行こう」と二人でカラオケに行ったそうだ。
実はじゃがくんはその前にも野人に救われている。
「お前は声が小さい。まずは声だけでも自信をもって出せるようになれ!」と。
そこから3カ月毎朝2人で「あえいうえおあお」と声出しを続けたそうだ。そんなストーリーが他のメンバーからもいくらでも出てくる。
仕事ができるマネージャーにもリーダーにもとうてい真似できない。
相手をまっすぐ受け止めて、つきあうチカラ。
真の意味で人を育むというのはこういうことかと教わった。
その彼はもういない。突然のお別れだった。
あなたの思いをちゃんとうけとめて、いい会社をいい社会をつくるよ、と約束した。
託されたウィルだ。